ペーター・シュミードルさん

インタヴュー(1) インタヴューその2

指揮者のいない

世界最高峰のオーケストラ

 
──長年憧れておりましたシュミードルさんにお会いできて光栄です。
トヨタのこのイヴェントに参加する意義というものを。
 
「なによりもこのツアーは、ふだんクラシックのコンサートにあまり行かないような方々に音楽を持って行くことができます。そして非常に高い水準の僕たちの音楽を本当にリーズナブルなチケットで聴いていただくことができます。それがこのプロジェクトの哲学だと思っています。これはトヨタさんのおかげでできることです。
 
これは、100人以上の大きな編成のオーケストラではなく、ウィーンから来る30人の精鋭の演奏家の室内楽オーケストラだからこそ可能になることです。指揮者がいないということも大きな特色です。大きなオーケストラと対抗するのではなくて、私達独自の真にコミュニケーションがとれている30人のあたたかいグループです。私はこのオーケストラを室内楽の “レクサス”と名付けたいです(笑)。」
 
──確かに小編成のオーケストラは
団員同士のコミュニケーションが取りやすいでしょうね。
 
「そのとおりで、コミュニケーションがとれるのは指揮者がいないからなんです。指揮者がいないからこそ、もっとお互いを聴かなければいけない。気持ちも集中しますし、皆にアンテナが張り巡らされます。しかもウィーンという一つの“鍋”からの演奏家ばかりなので、本当にコミュニケーションが取りやすい。何十年も友達の人もいれば、ふだんよく室内楽で合わせて弾いている人たちもたくさんいます。それが何よりも私達を上手に結びつけ編んでいるように思います。
 
学生時代からの友達もたくさんいます。他のオーケストラで一緒に弾いていた人もいます。中にはウィーンで生まれ育っていない人もいますが、必ずどこかで顔を見たことのある人で、ウィーンでアンサンブル、オーケストラ活動をしている人です。
 
いずれにしても人間的にも非常にわかり合える阿吽の呼吸をお互いに持つ仲間同士です。そしてリーダーという存在もありません。お互い自らの演奏に責任を持ち、且つお互いが引っ張っていくという特色があると思います。」
 

マイケル・ジャクソンも

レディ・ガガも

レゲエもラップも好き

 
──指揮者がいるときより楽しみが多いのでは。
 
「それは難しい質問です。例えば、オペラとバレエ、どちらがいいですか? 劇に行くのと音楽会に行くのとどちらがいいですか? そのような質問に近いですね。どちらも素敵です。
 
たとえば、女性は美しい。音楽もたくさん美しい作品があります。実は私はポップスも大好きなんです。マイケル・ジャクソンもレディ・ガガも、レゲエもラップも好きなものは好きです。そして私の愛情というものがあるとしたら、それは音楽だけに注いでいるのではないんです。それはもう世界に向かっています。私は好きなものがたくさんあって、私の愛情は全部に向かっています。そういう人間なんです。とってもポジティブに考えています。すべてを愛しています。」
 
──今回、クロンマーの2つのクラリネットのための協奏曲を吉田誠さんと共演されます。
 
「毎年、いろいろなコンチェルトをこれまでにもやってきています。今年は何をしようかと考えたときに、たまには2つのクラリネットのための協奏曲を演奏しようと思い、そして若い日本人アーティストと共演する試みも面白いと思いました。吉田さんはとても素晴らしい演奏をしますし、お話しするととてもいい感じの好青年です。今回はとても楽しみです。」
 

ホールに合わせたプログラミングも

 
──トヨタのこのシリーズの聴衆から受ける印象は?
 
「確かにお客さんの雰囲気は、通常のそれとは違います。まず、もの凄い熱狂で迎えてくれます。ふだん音楽会に行かない方が多いから、ということもあると思います。勿論、ふだん音楽会に行く方が来ないということではなくて、いわゆるクラシック・ファンの方々もたくさんきてくださいますが、コンサートに何を着ていこうか、とか、音楽が分かるかな、と思われるような方が皆さん来てくださって、しかもチケット料金がリーズナブルで、高い水準の音楽、ということで熱烈に迎えてくださるのだと思います。」
 
──クラシック・ファンを増やす、そういう貢献も
 
「勿論そうです。特に初めてコンサートに来た方々にとっては、次につながるいいきっかけになると思います。きっかけと言えば、どの街も、素晴らしい音楽会場が必要だと思います。それは、世界中の音楽会場、ウィーンでもベルリンでもニューヨークでも素晴らしい設計がしてあります。音楽家もそこで演奏することによって、成長するんです。聴く人も弾く人もそれは大事なことです。日本のホールもサントリーホールをはじめとして、札幌のKitara、大阪のザ・シンフォニーホール、福岡のアクロス福岡シンフォニーホール、愛知県芸術劇場コンサートホールなど、本当に素晴らしいホールがあります。響きがなにしろ重要なポイントです。より良い演奏ができますし、お客様もより楽しんでいただけます。」
 
──どんな響きが好きですか?
 
「なかなか、言葉で言うのは難しいですね。仮に言えたとしても、たぶん言わない範疇に入ることかもしれません。でも、どこも素晴らしい。響きが良い。雰囲気が良い。
 
レストランも一番大事なのは、メニューの中身だと思いますが、雰囲気とか、温度、サービスも大事ですね。それと同じことだと思います。たぶん日本にはもっともっとたくさんの素晴らしい、そしてちょっとずつ特色の異なるホールがあるのではないか、と思います。
 
忘れてはいけないのは、東京文化会館も素晴らしい響きです。五十年経っていますが、アコースティックが素晴らしい。」
 
──ホールに合わせて、ご自身の演奏も変化を?
 
「トヨタでいつも演奏するホールはもう何年も体験していますから、そのホールの響きのことはよく知っています。ですのでホールそれぞれに私の演奏をアジャストしていると思います。初めて体験するホールに行った場合でも必ず自然とアジャストしていると思います。五回リハーサルができれば、もっと完璧にアジャストできるかもしれませんが、ゲネプロ・本番、という場合も必ずそのホールに合った演奏につとめています。
 
曲とホールの相性というものもあると思います。例えば、福岡のホールは、とても大きく響きます。グランディオーソという感じです。私の場合、そこではffをあまり強く吹くということはしないですね。ppはかなり弱く演奏します。Kitaraでは、ppはもう少し吹いてもいい。
 
私達はどこのホールで何を演奏するべきか、ということも考えながらプログラミングしています。」
 

三代続いた

ウィーン・フィルのクラリネット奏者

 
──ご自身のことをお聞きしますが、お祖父様、お父様、ご自身と、一家三代にわたってのクラリネット奏者で、しかも、皆さんウィーン・フィルの首席奏者でした。凄いことですね
 
「三代続いたことは有り難く思っています。ただ、先祖がしたことに私は何も関係がないというか(笑)。別に私が祖父を選んだわけでもなく、生まれたときには、祖父が父がそうだったということなのですが、祖父は私が五歳の時に亡くなりました。父親は私が10ヶ月の時に亡くなってしまいました。だから父のことは覚えていないんです。
 
その代わり母が家のことはサポートしていました。そして私のやっていることを理解してくれました。そういう家に生まれたことは幸運でしたし、遺伝子もあったと思います。ただ遺伝子だけではだめで、もの凄く練習しました。お父さんがカーレーサーでも、息子が必ずカーレーサーになれるわけではないですよね。みんなもの凄く練習、訓練をすると思います。」
 
──ということは、お祖父様からもお父様からもクラリネットを習っていない、ということですか?
 
「そうです。習っていません。ただお祖父さんのことは覚えています。私のクラリネットの先生は、ウィーン・フィルで首席を吹いていた父の友人だったんです。そういう意味では、ウィーンの音楽家というのは、一つなんです。親戚づきあいをしますし、子供のことも知っていますし、家の歴史も知っていますし、みんな家族です。」
 
──長年、世界最高峰のオーケストラの首席でいらしたわけですが
その気持ちというのはどんなものですか?
 
「神、宇宙から与えられたこのポジションというものに感謝しています。ということは、そこには責任もあります。自己規律というものが大事だと思います。やはりしてはいけないこともあります。ワインやビールを飲み過ぎたり、サッカーをやり過ぎたり(笑)、そういうことはしてはいけない。やはり自分の責任というものを常に感じなければいけない。ソリストたちも皆そうだと思います。オーケストラの奥の方に座ってただ楽しそうに演奏しているというのではなく、本当に皆もの凄く努力をして、国に対する責任、音楽、作曲家、文化、そして世界に対する責任を重く感じていると思います。」
 
──やはり厳しい世界なのですね。
 
「どんな偉大な指揮者も、そこは厳しいでしょう。例えばレナード・バーンスタインとも私は交流がありましたが、彼もお酒は大好きでした。でもそれだけではなかった。スコアをもの凄く読み込んで、よく勉強するという時間も持っていましたし、バランスをとっていました。偉大な音楽家、偉大な指揮者というのは、皆責任感を持っている人たちで、20ものパートを頭に入れておくためにはやはり勉強しなければいけない。
 
かといって自己規律だけで、ガチガチになっていたわけでもない。そもそも楽しさというものを皆に伝えなければいけないですから。ただ、そうは言っても上手くいくときもあれば上手くいかないときもあります。でもやはり中心にあるのは、自己規律と喜びです。」(続く)
取材:アッコルド
「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」の芸術監督として
ずっと中心的役割を担ってきた
世界的クラリネット奏者のペーター・シュミードルさんに
「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」に対する思いをうかがった。
 
シュミードルさんは大変な親日家。
これまでに140回の来日を数えるそうだ。

トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーンの芸術監督に訊く

ペーター・シュミードル

(芸術監督・クラリネット)

 

オルミュッツに生まれる。

祖父、父、本人と3代にわたってウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を務めている。

 

ウィーン国立音楽大学でルドルフ・イェッテル教授に師事し、1964年卒業。65年にウィーン国立歌劇場管弦楽団、68年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に第1クラリネット奏者として入団、82年より第1首席奏者となる。

 

ソリストとして、これまでウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、パリ管弦楽団、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団、指揮者のベーム、バーンスタイン、プレヴィン、レヴァイン、ムーティ、小澤征爾の各氏等と共演。

 

また、室内楽奏者として、新ウィーン八重奏団、ウィーン木管ゾリステンのメンバーを務めている。

 

84年ザルツブルク功労金勲章を、91年オーストリア芸術名誉十字勲章をそれぞれ受章。

 

音楽教育家としても名高く、ヨーロッパだけでなく、日本においても数多くのマスタークラス(草津夏期国際音楽アカデミー、パシフィック・ミュージック・フェスティバル-PMF)を開催し、後進の指導に貢献している。